「奈良へはスケッチによく出掛ける。どこを歩いても絵があるので何枚か貰って帰る。定年後は日記代わりに手軽な葉書に替えたら枚数が増えて楽しくなった。

以前は白毫寺や新薬師寺付近もよく歩いて、破石を "わりいし" と読むことも知った。最近は大仏殿の裏あたりをスケッチして、時間があれば二月堂まで足を運び、帰りに興福寺に立ち寄るといったコースが多くなった。南大門を通るコースでは博物館あたりの車道より一段高い歩道がいい。南大門まで来ると、ここらで一枚という気になってくる。仁王が大きすぎて足だけ描いたこともあったり、鹿せんべいを持った子供と鹿との光景など賑やかなコースだ。

もう一つは知事公舎からのコースで、若草山が迎えてくれる。そして戒壇院までの白壁の道がいい。ここから大仏殿までのゆったりした空間の中でスケッチする人も多い。ブラブラと大仏殿の裏あたりまで来ると静かで、私の好きな所でもあり相当の時間を過ごす。二月堂へはもうそこだ。屋根の瓦の線、扉、大きな提灯を見ると描きたくなる。大仏殿の鴟尾も見えるが眺めるだけの方が多い。ここで帰路に向かうこととなるが、この頃には疲れて集中力はない。

私は常々暖かい絵を描きたいと思っている。そのためにも自分自身の心が豊かでなければならないとも思う。スケッチで心掛けていることは、線が硬くならないよう座らずに立って描いているだけである。
構図よし、色よしは4、5枚に1枚程度で打率2割5分位のものだ。クリーンヒットもあるがボテボテの内野安打の方が多い。でも案外、内野安打の方がクリーンヒットかもしれない。次は”ならまち”でヒットを打ってみたいと思っている。」(文:イヌイエイジ)
